最高裁判所第三小法廷 昭和43年(オ)1355号 判決 1969年4月15日
当事者
上告人(被告・昭和四一年(ネ)第九五三号事件被控訴人・昭和四一年(ネ)第一〇〇五号事件控訴人) 第一汽力工業株式会社
右訴訟代理人弁護士 中尾良一
被上告人(原告・昭和四一年(ネ)第九五三号事件控訴人・昭和四一年(ネ)第一〇〇五号事件被控訴人・昭和四一年(ネ)第一〇七四号事件被控訴人) 樋口ひさゑ 樋口禎二 南知子 井関富子
右四名訴訟代理人弁護士 黒岩利夫
主文
本件上告を棄却する。
上告費用は上告人の負担とする。
理由
上告代理人中尾良一の上告理由について。
債務不履行を理由とする契約解除の前提としての催告に定められた期間が相当でない場合であっても、債務者が催告の時から相当の期間を経過してなお債務を履行しないときには、債権者は契約を解除することができるものと解すべきである。そして、この理は、催告期間を定める特約の付された契約にあっても異ならないものというべきであって、債権者が特約に定められた期間より短い期間を指定した催告をした場合でも催告の時から特約所定の期間を経過しかつその期間が相当と認められるときには、信義則上、催告に応じた債務の履行をしない債務者を保護する必要はなく、債権者は、契約を解除することができることとなるものと解するのが相当である。したがって、本件土地の賃貸人が賃借人らに対して五日以内の債務の履行を求めた本件催告は、三週間の催告期間を定めた特約に違反してはいるが、右催告と同時にされた条件付契約解除の意思表示により、催告後三週間を経過したときに賃貸借契約解除の効果が生じたものとした原審の判断は是認することができ、右特約が調停においてされたものであるとの所論の事情その他原審認定の事実を考慮しても、右賃貸人の解除権の行使が信義則に違反するものとは認められない。原判決に所論の違法はなく、論旨は採用することができない。
よって、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員の一致で主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 松本正雄 裁判官 田中二郎 下村三郎 飯村義美 関根小郷)
上告代理人中尾良一の上告理由<省略>